一級建築士事務所 株式会社ビーゴーイング






 技術コラム


札幌市中央卸売市場 青果棟

1 はじめに

 中央卸売市場は、昭和34年12月青果物部、同35年4月水産物部が業務を開始以来40数年に亘り、北
海道の生鮮食料品流通の拠点市場として重要な役割を担ってきました。

 しかし、生産地の大型化・流通環境の変化・小売業の近代化・消費の多様化などが加速され、拠点市
場としての消費流通の効率化・高度化への対応と、施設の老朽・狭隘化の解消が迫られるなか、平成9
年6月に 「基本構想」が策定され、平成12年7月立体駐車場の着工を皮切りに、平成15年12月の水産
棟供用開始を経て、本年2月青果棟がしゅん功したところです。

 再整備事業も残すところ 「防災センター」・「センターヤード」・「廃棄物処理施設」 の3施設の平
成19年2月の完成を待つばかりとなり、いよいよ最終段階に入ったところです。




1階 卸売場 各階 事務所


2 計画の基本方針

■環境に優しいクリーンエネルギーの採用
 地球環境保全、自然環境への配慮及び安定供給等を基本としたエネルギーの採用。
■快適な労働環境の構築、及び周辺環境への配慮
 場内従事者と生鮮食料品の両面にとって快適で清浄な室内環境の構築を図ると共に、騒音や臭気対策
を講じ周辺環境にも配慮。

■衛生管理機能の強化
 生鮮品の鮮度保持、汚損対策、臭気対策、塵芥処理等に対応した設備計画。
■省エネルギー対策
 運営経費の縮減や環境保全の観点から、省エネルギー・省資源化を目指す。


3 設備概要

■冷暖房設備
 熱源機器として、真空式温水ヒーターを2基設置し、外調機に温水を供給してます。負荷変動により
台数制御運転を行い省エネを図っています。

 卸・仲卸事務所の冷暖房は、それぞれ使用時間帯が異なるため、個別運転に対応できるGHP(ガスエ
ンジンヒートポンプエアコン)を採用してます。光熱費の管理は専用の制御盤によって容易に課金でき
るシステムを採っています。

 卸売場の暖房については、採暖用としてではなく、商品の凍結防止を主目的として天吊型遠赤外線暖
房機を設置しています。卸売場は天井が高いため、効率よく赤外線を照射できるように均一指向型とい
う特殊な機種を採用しています。

同じく1階卸売場の一部には、生鮮品の鮮度保持を目的として低温売場を設けています。温度管理は
15℃とし、冷熱源は環境に配慮し、自然冷媒(アンモニア)を用いた冷凍機を採用しています。

 同売場の冷却は天井チャンバー方式を採用しています。この方式は天井のパンチング孔から低風速で
冷気を送ることにより、均一な温度分布が得られることと、風による生鮮品の乾燥防止や、人に対する
不快感を抑える効果があります。


■空調設備
 一般事務室は、冷暖房設備と同様にテナントごとに使用時間帯が異なること及び省エネを考慮し、全
熱交換型換気扇を採用し、3階の事務所階については、便所などの第三種換気に対しエアバランス確保
のため、給気補償用として外調機を設置しています。

 1階の卸売場は、配送車などから一酸化炭素など有害物質が排出されます。これらを効率よく排出し
換気動力費を極力抑えるため、自然換気を主体としたハイブリット換気方式を採用しています。

 また、市場という大規模施設を一元的に管理できるように施設管理支援システムを導入、図面管理
(しゅん功図、設計図など)、施設運用管理(貸スペース情報、カギ情報、機器情報など)、CO2排
出量管理(施設全体のエネルギー使用量からCO2排出量に換算できるプログラム)を行っておりま
す。




1階 卸売場 赤外線暖房機 3階 機械室温水ボイラー
温水循環ポンプ群

給排水設備
 給水は市水本管より分岐引込みをし、3階の受水槽に一時貯水後、加圧給水ポンプによって各所へ供
給しています。

ポンプは台数制御+インバーター方式により省エネを図っています。
排水は、重力式にて屋内分流、屋外合流で公共下水へ放流。給湯は個別の使用状況に対応できる局所方
式を採用しています。

衛生器具については、節水型の器具を採用し、省資源に努めてると共に、多目的便所を配置し、車椅子
はもちろんのこと、高齢者、オストメイト対応など器具(汚物流し、シャワーユニット)面でのバリア
フリー化を図っています。

 空調熱源用及び一般用エネルギーとして有害な燃焼ガスの排出を極力抑え環境面にも配慮するため都
市ガス(天然ガス・13A)を採用しています。

 以上設備概要を述べてまいりましたが、本計画を進める上で、水産・青果両棟共通の課題である次項
について、水産棟においてシミュレーションから実装、供用後の状況について検証を行いましたので併
せて紹介致します。




車椅子、オストメイト対応便所 3階 受水槽室


4 卸売場の環境改善と省エネ計画
 改築前の旧水産棟売場内の空気環境は、実体調査の結果、場内を走りまわる大型の配送トラックや、
モートラ(市場特有の小型三輪車)から排出される一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)、浮遊粒子
状物質(SPM)等の有害物質の拡散によって、機械換気は施されている物の劣悪な環境下に有ることが
明らかとなりました。

 本計画に当たっては、場内従事者や水産物生鮮品の両面にとって、清浄で快適な室内環境を構築する
ためには、強力な換気設備が不可欠で有ることから、換気動力費を抑えながら室内環境改善を計らなけ
ればならないという相反する問題を抱え、それらを解決するために以下の対策を講じました。


■ハイブリット換気方式の採用
 売場内の空気環境を適切な状態に維持するということは、即ち、膨大な換気量が必要となり機械換気
に頼る限りおいては動力費の増大は避けられない。従って、自然換気を主体としながらも、屋内外環境
条件の変化に対応出来るように機械換気を併用したハイブリット換気方式を採用し、動力費の削減を図
りました。

■自然通風のし易い入気口及び排気口の配置
 卸売場は、床面積の割りには空間の天井高さが相対的に低く抑えられており、空気流動面において不
利な条件となっていることから、自然通風のし易い入・排気口配置の工夫も併せて行いました。

■廃棄熱の有効利用
 自然通風力を促進するためには、適切な入排気口の配置と共に屋内外の自然温度差が必要条件となり
ますが、売場内は生鮮食料品を取り扱うことから低温環境であることが望ましく、局所的な採暖を
施し
てわいるものの売場全体としては、屋内・外空気の入れ替わりの駆動力となる熱源が希薄であるため

に、冷蔵庫室外機(コンデンサー)の廃棄熱を駆動熱源として有効利用する計画としました。

※許容濃度とは、労働者が1日8時間、週間40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝
露される場合に、当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であればほとんど全ての労働者に健康上
の悪い影響が見られないと判断される濃度。


■ハイブリット換気の概要
 売場(面積≒17,000m2)を12ブロックに分け、1ブロック毎に給排気口を持つトップライト
を設置。は卸売場の自然排気用(一部機械給気用)、は仲卸売場の自然排気用、は自然入気用と
して、また、卸売場の自然入気口としてを設置しました。





▲ハイブリット換気概念図




5 おわりに
 札幌市中央卸売市場再整備という大きな事業に携われたことは、私にとって良い経験を積ませて頂い
たと思っています。

今年度で再整備事業のひとつの区切りを迎えますが、最後まで携わっていきたいと思っています。
また、この経験を今後の設計監理に活かしていきたいと思います。
青果棟しゅん功にあたり、札幌市をはじめ市場関係者ほか、様々な方々の多大なご協力を頂きました。

機械設備課長 磯貝慎一郎

【社団法人 北海道空調衛生工事事業会 協会誌「きらめき」VOL.17より抜粋】