一級建築士事務所 株式会社ビーゴーイング






 技術コラム


■児童にやさしい学校施設
  (札幌都心部子ども関連複合施設の設備計画)


3Fワークスペース

1.学校施設複合化の特徴

◎施設配置
 計画地が都心部ということで敷地の有効利用に配慮し、標準校では敷地内にそれぞれ別棟で建設する屋
内運動場・プールなどを施設内に取り込み一体化を計ることによってより有機的な空間を形成している。

 1階は利便性が高く、施設間の連携を意図して図書室・ミニ児童会館・保育園・子育て支援施設、地階
には屋内運動場を配置し地域に開かれた施設としている。また、開放的で眺めの良い5階にランチルーム
と隣室させ給食室を配置している。平面形状は南面に一般教室、北面に比較的利用頻度の低い特別教室を
配置し、コア部分は多目的スペース、児童便所、空調機械室等で構成されている。


◎熱源システム
 使用エネルギーは、環境保全・安定供給・維持保全性・ライフライン途絶対応など、総合的観点から都
市ガス(13A)とし、熱媒体を快適性・温度持続性・易制御性・安全性から温水とした。

 熱源機は真空式温水ヒーターを3台分割にし、施設管理運営の区分化による部分負荷対応、高効率運
転、故障代替、避難所としての最低温度補償等を考慮し、適正な容量配分として集中設置した。


◎冷暖房設備
 一般教室、ワークスペースなど開放的な空間については温度環境の均質化、負荷変動に対する応答性と
保温効果が得られること。また、強制対流による塵埃の舞上がり拡散、再循環がなく汚染物質発生の制御
につながるなどの観点から主暖房を温水パネルヒーター方式とした。

 共用ロビーなどの吹抜け部は暖房効率の良い床暖房とファンコンベクター(天井)とし、窓下に作業台
等がある特別教室も同様にファンコンベクター(天井)を設置した。冷房は効率性と省エネルギー性。使
用形態から空冷パッケージエアコンとガスエンジンヒートポンプパッケージを各々コンピューター教室、
給食室に設置した。パネルヒーター系統の温水配管にはダイレクトレターン方式を採用し、配管の省スペ
ース化、設備費低減及び省エネルギー、CO2排出量削減、熱媒搬送動力費削減を図った。


◎空調設備
 一手法である「自然換気」の有効性を認識しつつも、排気ガスによる室内環境や換気不足に起因する
VOCでの空気汚染、冬季の低温外気処理の必要性などから、児童の居室を外気処理機による第一種機械換
気とし、空気を再循環させない全外気方式とした。

 各階の外気処理機で新鮮空気を予熱供給するとともに、VOC排除に対応した換気量を確保するほか、
回転式熱交換機を組込み、排気熱回収による外気負荷の軽減を図った。また、熱交換機の排気側から給気
側へVOC成分の移行がないようにダブルセパレーター型の顕熱交換機を採用した。

 特別教室は外気処理機(インバーター制御)に可変風量装置(VAV)を併用し、不使用室など利用状況
の変動に対応する方式とした。


◎プール設備
 保育園2階のプールは、ガラススクリーンに囲まれた開放感のある室内プールで学校用と幼児用を併設
している。室内は床暖房と温水パネルヒーターによりドラフトを感じさせない居住域暖房とし、多湿空を
停滞させない気流分布と塩素ガス濃度等を基準以下に維持する換気量とともに、適切な残風速と送風温度
に設定し快適な室内空間を確保している。

 学校用プールの濾過循環システムは、強制オーバーフロー還水方式を採り、効率の良い水流循環、水流
分布の均一を図った。さらに自動塩素監視装置により的確な塩素管理を行い透明感のあるより良い水質を
維持し、子供たちが水になじみ、楽しめる空間として常に安全・快適・衛生的な環境にした。




1F保育室

男子児童トイレ


2.環境配慮(エコスクール)の取り組み
 建築計画においても敷地の緑被率に考慮した配置計画をはじめとし、バルコニーによる外部空間の提供
と夏季の直射日光防止、共用ロビーの3層吹抜けによる通風の促進、教室の大きな上窓と梁型のない平滑
な天井による自然光の取入れなど、さまざまな部位で工夫をこらし建物自体でも環境に配慮している。

 その環境配慮を維持、補完するために採用した設備システム例を次に記す。

◎『やさしく造る』
(1)児童・生徒にやさしい環境を造る
 1、室内環境を良好に保つ
 ・快適な温熱環境〜全館温水暖房、1階共用ロビー、図書室の床暖房
 ・温度環境の均質化〜温水パネルヒーター+外気処理機(熱交組込)
 ・夏季の直達日射防止〜教室南面にバルコニー設置
 ・シックスクール対策〜外気処理機による換気量の確保
 2、児童・生徒の利用に考慮
 ・壊れにくく、安全で扱いやすい〜温水パネルヒーター、センサー式衛生器具、水栓
 ・手をわずらわせない空調換気、照明操作
(中央監視による発停、スケジュール制御、サーモバルブ付温水パネルヒーター)
(2)地球にやさしい環境を造る
 1、環境負荷の少ない材料の選択
 ・使い捨て材料の最小化〜フィルターにろ材交換型を採用
 ・ノンフロン対応製品の採用〜HFC系R407C冷媒
 ・パネルヒーター系統温水配管に差圧調整弁とダイレクトリターン方式の採用
  〜配管長を短くし、省資源、省コスト、搬送動力の低減
 ・外気処理機に熱交換機組込み〜外気負荷の低減

◎『賢く・永く使う』
(1)建物の寿命をのばす計画
 1、維持・管理を容易にする
 ・掃除の容易性を配慮し小便器に低リップタイプ(壁掛け式)を採用
 ・配管保守、更新のための床下ピット及び二重スラブピット
 ・高所天井内の配管保守、更新のためのメンテナンスデッキと天井の一体化
 ・グランド芝管理のための散水用ノズル(自動散水式)の設置
 2、無駄なく・効率よく使う
 ・ファンのインバーター制御
 ・スケジュールによる空調発停
 ・排気熱回収(全熱・顕熱)
 ・外気補償制御による温水暖房
 ・温水ポンプ台数制御
 ・受水槽センサー式水位制御
 ・センサー式衛生器具、水栓
 ・人感センサーによる階段、トイレ照明点滅

機械設備設計室設計長 林 浩三

【社団法人 北海道空調衛生工事事業会 協会誌「きらめき」VOL.11より転載】